健康診断・予防接種は法人の経費になる?会社負担で給与課税されないための3条件

従業員や役員の健康診断費用を会社が負担したとき、その支出は経費として認められます。
ただし、「会社が払えば必ず福利厚生費になる」わけではありません。
対象者の決め方、金額の水準、支払方法といった要件を外すと、受けた本人への給与として課税される可能性があります。
本記事では、健康診断・人間ドック・インフルエンザ予防接種の費用について、給与課税を避けるための3つの条件を整理したうえで、課税されやすいケースや勘定科目と仕訳、消費税の扱い、社内整備の進め方といった話題まで解説します。
目次
法人が負担する健康診断・予防接種費用は経費にできる
健康管理を目的として法人が負担する費用は、条件を満たせば福利厚生費として損金に算入できます。
まずは経費になる範囲と、混同しやすい勘定科目の違いを押さえます。
健康診断費用は原則として福利厚生費に計上できる
法人が役員や従業員の健康管理を目的として負担する健康診断費用は、条件を満たせば福利厚生費として損金に算入できます。
労働安全衛生法に基づく定期健康診断に限らず、福利厚生として実施する人間ドックも対象になり得ます。
ただし、支出した事実だけで福利厚生費になるわけではなく、対象者・金額・支払方法から総合的に判断されますので、次の2つは分けて考えなければいけません。
- 法人税の損金算入|会社の経費として認められるか
- 所得税の給与課税|受診した従業員や役員に給与として課税されるか
健康診断と人間ドックの違い
人間ドックは高額になりやすいものの、条件を満たせば福利厚生として認められます。
国税庁の質疑応答事例では、次の場合に給与等として課税する必要はないとしています。
- 一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができる
- 検診を受けた者の全てを対象として、会社がその費用を負担する
以下、質疑応答事例で前提とされているのは、全員に年2回の定期健康診断を行ったうえで、年齢35歳以上の希望者全員に人間ドックを実施する制度です。
一般健診と人間ドックで勘定科目を分ける必要はありません。
インフルエンザ予防接種も福利厚生費にできる
感染予防や欠勤リスクの軽減を目的に会社が負担する場合、予防接種の費用も福利厚生費で処理できます。
ポイントは一般的な健康診断と変わりません。
- 全従業員、または合理的な基準で定めた対象者が使える制度にする
- 希望者だけが接種する形でも、全従業員に公平に機会があれば差し支えない
- 会社が医療機関へ直接支払うか、領収書に基づいて実費を精算する
なお、インフルエンザワクチンの予防接種は、セルフメディケーション税制の適用要件である「一定の取組」にも該当します。
(参考)国税庁 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】
福利厚生費と法定福利費の違い
会社負担額は一般的に福利厚生費で処理します。
名前の似た法定福利費とは扱う内容が異なる点に注意しましょう。
- 福利厚生費:健康診断・人間ドック・予防接種・慶弔費など、会社が任意で行うもの
- 法定福利費:健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料など、法令に基づく社会保険料
法定福利費で処理すると社会保険料の負担額が実態と合わなくなりますので、両者は明確に分けなければいけません。
▶関連コラム:【節税対策に福利厚生】確認したい10の制度│利用時の注意点もご紹介
健康診断費用が給与課税されないための3条件
給与課税を避けるうえで確認したいのは、対象者・費用と検査内容・支払方法の3点です。
- 条件1 対象者:全従業員、または年齢などの合理的かつ一律の基準で対象者を決める
- 条件2 費用・検査内容:健康診断・人間ドックとして社会通念上妥当な内容と金額にする
- 条件3 支払方法:受診者全員を同一基準で会社が負担し、直接支払いか実費精算にする
条件1:全従業員を対象とするか合理的な一律基準を設ける
原則として全従業員が利用できる制度にします。
雇用形態や年齢で対象者を限定する場合は、健康管理上の必要性に基づく合理的な基準を用意する必要があります。
- 認められやすい例|35歳以上は人間ドック、35歳未満は一般健診と年齢で分ける
- リスクが高い例|役員や管理職だけを対象にする、報酬額で負担額を変える
カフェテリアプランに関する質疑応答事例でも、職務上の地位や報酬額に比例して給付を行う場合はその全てが課税対象になると示されています。
(参考)国税庁 カフェテリアプランによるポイントの付与を受けた場合
条件2:健康診断として一般的で社会通念上妥当な金額にする
通常行われている健康診断や人間ドック程度の内容と金額であることが求められます。
税法上「○万円まで」という一律の非課税上限はなく、検査内容・地域相場・会社規模といった要素から判断されます。
- 認められやすい例|一般健診に加えて、業務上必要なオプション検査を会社が負担する
- リスクが高い例|特定の役員だけがVIP健診・宿泊付き検診・美容目的の検査を受ける
高額な人間ドックを導入する場合は、対象者・検査項目・負担上限を社内規程で定めておきましょう。
条件3:会社が受診者全員の費用を負担する
対象者のうち実際に受診した全員について、同一の基準で会社が負担します。
このとき、支払方法によって説明のしやすさが変わります。
- 最も説明しやすい|会社が医療機関と契約し、直接支払う
- 次に説明しやすい|従業員が立て替え、領収書に基づき規程どおり精算する
- 課税される可能性が高い|受診の有無を問わず現金を支給する、余った補助額を現金で受け取れる
「全額負担」が難しい場合の考え方
全額負担が難しい場合も、制度の組み方によって対応できる可能性があります。
- 標準的な健康診断費用を全額負担し、本人が希望した追加検査だけ自己負担にする
- 会社負担額に上限を設ける場合は、役職にかかわらず一律に適用する
- 上限額は、通常必要な健康診断を受けられる水準に設定する
避けたいケースは、役員だけ上限額を高くする運用です。
「全員に同額を支給する」のではなく「全員が同じ条件で受けられる制度にする」と考えれば、判断を誤りにくくなるでしょう。

橋場先生
健康診断の費用を経費にするには、「だれを対象にするか」「いくらまで出すか」といったルール作りが大切です。
自社のやり方で問題ないか不安なときは、ぜひARK税理士法人にご相談ください。
税制面でのリスクを避けた、安心できる制度づくりをわかりやすくサポートします。
給与課税されるケースと役員・人間ドックの注意点
課税を指摘されやすいのは、対象者を絞った制度と現金が動く制度です。
具体的なケースを見ていきましょう。
役員のみを対象とした人間ドック
社長や役員だけが人間ドックを受診し費用を法人が負担した場合は、福利厚生費として認められにくくなります。
役員個人が負担すべき費用を会社が支払ったとみて、役員給与または役員賞与と判断される可能性があります。
- 役員個人|給与として所得税が課される可能性がある
- 法人側|定期同額給与・事前確定届出給与に該当しない役員給与は損金不算入になる
役員を対象に含めること自体は問題なく、従業員と同一または合理的な基準で適用することが前提です。
(参考)国税庁 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
一部の従業員だけを優遇するケース
同様に、成績優秀者や管理職だけに高額な人間ドックを提供する制度も、指摘を受けやすい形です。
地位・業績・報酬を基準に給付内容を変えると、給与や賞与と判断される可能性があります。
パート・アルバイトを対象外にする場合も合理的な理由を整理し、対象者を規程に明記してください。
現金支給や定額手当として支給するケース
「健康診断手当」として現金を支給する場合、原則として給与課税の対象になります。
とくに受診しなかった従業員にも支給する制度は、健康管理の実費補助といえないため、給与と判断されやすくなります。
- 給与として扱う場合は、所得税の源泉徴収が必要になる
- 社会保険料の算定対象に含まれる可能性がある
- 現金支給ではなく、医療機関への直接支払いか実費精算を基本とする
高額なオプション検査・美容目的の検査
一般的な健康管理の範囲を超える検査は、福利厚生としての妥当性を説明しにくくなります。
美容検診や審美目的の施術は本人負担としてください。
実務上は標準検査とオプション検査を区分し、請求書でも会社負担分と本人負担分を分けて発行してもらう方法が確実です。
健康診断を受けなかった人へ代替金を支給するケース
受診しなかった人へ同額の現金や商品券を支給すると、現物給付ではなくなるため給与性が強くなります。
制度の目的は健康管理であり、経済的利益を補填する必要はありません。
カフェテリアプランでも、換金性がある場合はその全てが課税対象になるとされています。
(参考)国税庁 カフェテリアプランによるポイントの付与を受けた場合
健康診断・予防接種費用の勘定科目、仕訳、消費税
健康診断費用の税務処理で確認しておきたいポイントは、勘定科目・仕訳・消費税区分の3つです。
健康診断費用の勘定科目と仕訳
「健康診断費用が給与課税されないための3条件」を満たしている場合は、福利厚生費で処理します。
たとえば、健康診断費用110,000円を記帳する際の仕訳は次のとおりです。
【会社が直接支払う場合】
- 会社が医療機関へ直接支払う:(借方)福利厚生費 110,000/(貸方)普通預金 110,000
【従業員が一時的に立て替える場合】
- 従業員の立替分を精算する(発生時):(借方)福利厚生費 110,000/(貸方)未払金 110,000
- 同(支払時):(借方)未払金 110,000/(貸方)普通預金 110,000
「健康管理費」などの独自科目で管理しても、継続して同じ処理を続けていれば差し支えありません。
給与課税される場合の仕訳
健康診断費用が給与として認定される場合は、仕訳の科目が変わります。
- 従業員の場合:(借方)給与手当/(貸方)普通預金。源泉所得税は預り金
- 役員の場合:(借方)役員報酬/(貸方)普通預金
- 役員賞与と判断された場合:法人税上、損金に算入できない可能性がある
給与として処理する場合は、源泉所得税の徴収と社会保険料への影響も確認する必要があります。
インフルエンザ予防接種費用の仕訳
全従業員を対象とした予防接種費用は、福利厚生費で処理します。
- 会社がまとめて支払う|(借方)福利厚生費/(貸方)普通預金
- 従業員が立て替える|領収書に基づき実費精算し、未払金または立替金を経由する
注意したいポイントは家族が受けた接種費用です。
本人以外の分まで会社が負担すると経済的利益が給与と判断される可能性がありますので、事前に規程を設けて対象範囲を明確にします。
健康診断・人間ドックの消費税
消費税が非課税となる対象は、健康保険法などによる社会保険医療の給付等です。
健康診断や人間ドックは治療ではなく検査・予防を目的とするため、保険診療とは扱いが異なります。
- 請求書を確認し、課税取引として処理されていれば仕入税額控除の対象になり得る
- 給与として従業員へ現金支給した金額は、消費税の課税仕入れにはならない
- 消費税区分は勘定科目ではなく、取引内容と請求書に基づいて判定する
インボイスの保存と仕入税額控除
健康診断や人間ドックの利用で消費税が発生し仕入税額控除を受ける場合は、原則として帳簿と適格請求書等の保存が必要です。
- 医療機関から受け取る請求書・領収書・適格請求書
- 受診者一覧と、会社負担額の計算資料
- 従業員が立て替えた場合の経費精算書または立替金精算書
なお、免税事業者や簡易課税制度を選択している法人では、消費税の計算上、仕入側の適格請求書の保存は要件になりません。
ただし、法人税で費用として計上するには領収書等の保管が必要ですので、書類自体は残してください。
▶関連コラム:【インボイス制度の経過措置とは?】計算方法や制度の概要について詳しく解説!

橋場先生
健康診断や人間ドックの費用は、ルールづくりや領収書処理を間違えると、税金が増えるケースもあります。
「福利厚生費で通るか不安」「役員分をどのように扱うか」迷ったときは、税務のプロに任せると安心です。
社員の健康管理とスムーズな節税・経理処理を両立させたい方は、福利厚生の観点からも対応可能なARK税理士法人へお気軽にご相談ください。
福利厚生費として否認されないための社内整備とよくある質問
記事の終わりに、福利厚生に関係する社内整備について、よくある疑問と回答をご紹介します。
健康診断規程・福利厚生規程を作成する
制度を規程として落とし込んでおくと、税務調査が入った場合に説明しやすくなります。
明記したいのは、主に次の5点です。
- 対象者(全従業員か、年齢などの基準を設けるか)
- 受診できる検査の種類
- 実施頻度
- 会社負担額と上限
- 精算方法(直接支払いか実費精算か)
役員と従業員で取扱いを変える場合は、規程に合理的な理由を記載する必要があります。
毎年同じ基準で運用し、特定の人だけ例外扱いをしないことも欠かせません。
請求書・領収書・受診者一覧を保存する
税務調査では「誰が、いつ、いくらで受けたか」を証明する請求書や受診者リストの保管が求められます。
一方で健康診断結果は配慮の必要な個人情報ですので、経理書類などと混ざらないよう注意が必要です。
▶関連コラム:【税務調査の完全ガイド】対象になりやすい条件・流れ・よく聞かれる質問・対策を税理士が解説
Q:役員1人だけの法人でも健康診断を経費にできますか?
A:従業員がいない一人社長の法人は「全社共通の福利厚生」という前提を適用しづらく、役員給与(課税対象)とみなされるリスクが高くなります。
役員給与としての課税や損金不算入を防ぐためにも、受診や契約へ進む前に専門家へ相談することをおすすめします。
Q:パートやアルバイトを対象外にしても問題ありませんか?
A:ただちに否認されるとは限りませんが、雇用形態だけで一律に除外すると公平性を保ちづらくなります。
勤務時間や契約期間、法定健康診断の対象範囲を基準にしたルールづくりが欠かせません。
Q:人間ドックに金額の上限はありますか?
A:税法上、非課税の上限額は明示されていません。
通常必要といえる金額か、また会社の規模や地域相場などから判断されます。
実務上は上限額を設定したうえで、超過した分を本人負担とする方法が一般的です。
Q:健康診断費用は従業員の医療費控除の対象になりますか?
A:会社が全額負担した費用は本人の支払いとならず、医療費控除の対象になりません。
本人が自己負担した検診費用も、疾病の治療でないことから原則として対象外です。
ただし国税庁は、健康診断の結果、重大な疾病が発見され、引き続きその疾病の治療を行った場合には、その健康診断のための費用も医療費控除の対象に含まれるとしています。
まとめ|3条件を満たせば福利厚生費として処理できる
健康診断・人間ドック・予防接種といった費用は、対象者を全従業員または合理的な一律基準で定め、社会通念上妥当な内容と金額に収め、受診者全員の費用を会社が負担するという3条件を満たせば、福利厚生費として処理できます。
一方で役員だけを対象とする制度や、受診の有無にかかわらない現金支給は、給与として課税される可能性が高くなります。
制度を守るうえで効くのは規程と証憑です。
対象者と会社負担額を規程に明記し、請求書・領収書・受診者一覧を残しておけば、税務調査でも説明ができます。
より詳しく、健康診断費用と税金の関係や経理処理の方法などについて確認したい方は、福利厚生制度の整備も対応できる、ARK税理士法人へお気軽にご相談ください。
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